チャルカ

アメリカの家に到着し、荷解きを行う。服はハンガーにかけ、化粧品類は化粧室へ、そして物類はひとまず棚に置く。

今回荷造りした時に1番最初にスーツケースに入れたものは、某先生に反物から手で縫ってもらった誂えの作務衣であえる。その次に入れたものは、綿打ちをしてもらって譲り受けた綿。その次に入れたものは、ブック型のチャルカであった。東京からの25時間以上の移動時間の後、マサチューセッツ州の部屋で荷解きをして1番最後に出てきたのは当然作務衣で、それはクローゼットに入れた。さあ、次に仕舞うは綿とチャルカである。棚に置くか「やってみる」か。「やってみる」というオプションが出てきた以上はやるしかない。やっちゃおう。

チャルカというものは何かというと、携帯できる木箱の形をした糸紡ぎマシンだ。金属の細い取っ手もついていて、蝶番がつく短辺を軸に左右に開けると、中にはおままごとのようにチマチマと平面化した糸車が2つ、それからツムをかけるところ、綛上げ用の棒などが収められており、ひとつひとつ部品を準備して調整しながら立体化して使う。閉じると長方形の木箱になって本棚に入れることができることから「ブック型」とも呼ばれる。本棚に入れないとしても、適宜その辺に置いておける。閉じることができるので、埃を気にすることもない。スマートである。この工夫と細工が詰まったチャルカを発明したインド人に対しては、敬服するしかない。わたしは今回アメリカに行くということになって、現地でも自分で糸を紡ぎたい、と言ったら、先生に「チャルカ」なるものを紹介してもらった。これがあればいつでもどこでも糸が紡げる、という。わたしは、これまでの日本での生活が充実かつ華やかなものであったから、新生活のアメリカでは孤独を感じるかもしれず、そんな中では自分を保てる何かが必要であった。その一つの手段として糸紡ぎを考えた。いつでもどこでも糸紡ぎができるチャルカ。わたしがチャルカのことが好きになった理由の一つである。

さらに、もう一つわたしがチャルカが好きな理由がある。チャルカは社会を変えたのである!インドがイギリスから独立する際、ガンジーはこのチャルカを人々に配布したのだ!チャルカさえあれば、そしてその使い方を覚えさえすれば、いつでもどこでも糸が紡げる。布ができる。そして、宗主国イギリスへの経済的依存から脱却し、自らの手で糸を紡ぎ出して経済的に自立、精神的にもインドの文化的復興を目指し、遂にそれを果たしたのだ!チャルカの力で社会の下部構造を変えたのだ!手に職をつけ、人々は貧困から脱出し、他国に依存しない経済構造に作り変えた!そして下部構造により規定されてしまっていた精神という上部構造をも変えた。独立とは経済の独立のことだけではない。精神の独立なのだ!

このことを知って、わたしはたちまちチャルカのファンになった。

わたしは、移動で身体は疲れているはずであったが、そんなことは感じる暇もなく、昼下がりの日差しが部屋に差し込む中、チャルカの箱を開けて糸を紡ぎはじめた。なかなか難しいが面白い。難しいから面白いのである。

そしてわたしは自分のアメリカ生活の糸をも紡ぎ始めた。

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